大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)43号 判決

東京都中央区日本橋四丁目四番地

原告

日本ジエスコール産業株式会社

右代表者代表取締役

酒井正衛

右訴訟代理人弁護士

進藤寿郎

多久島耕治

東京都中央区日本橋堀留町二の五

被告

日本橋税務署長

高橋照忠

右指定代理人

宮北登

鳥居康弘

服部昭一

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し、昭和四六年八月三一日付でなした同四四年八月一日から同四五年七月三一日までの事業年度(以下、「本件事業年度」という。)における再更正処分(裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得金額一六、八六二、九二六円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  (本案前の申立て)

主文と同旨

2  (本案の申立て)

(一) 原案の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  原告は活性炭素の製造並びに販売等を業とする株式会社であるところ、本件事業年度における法人税に関し次表のとおり確定申告し、そして各課税処分をうけた。

〈省略〉

二  しかしながら被告が原告に対し昭和四六年八月三一日付でなした再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、右各処分を一括して「本件課税処分」という。)には以下のとおり、信義則に違反した手続的瑕疵と、原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

1  原告は、本件事業年度について、後記被告の主張1の二の(6)の(b)の表、番号2ないし7欄記載の経費等(以下、「本件経費」という。)を、栃木工場の土地の譲渡に要した費用とすることなく、租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下同じ。)六五条の四、一項に規定する差益割合を算出し、そして当該差益割合を基礎に、右法条の規定を適用して、買換資産にかかる帳簿価額の圧縮限度額を計算し、当該圧縮限度額の範囲内で右帳簿価額の損金算入をして、被告に対し当該事業年度にかかる法人税の確定申告をした。その後、被告は、所部係官に原告の所得金額の調査を行わせ、その調査を基にして、昭和四五年一二月二五日更正処分(以下、「当初更正」という。)を行った。しかし、当初更正では右の損金算入に関する事項は、更正の理由にはなっていなかった。したがって被告は、右の損金算入に関する原告の計算を是認し、本件経費を工場の移転費用として承認していたものである。

しかるに被告は、会計検査院から、本件経費が譲渡費用ではないかと指摘されるや、原告に対し、再度の調査及び弁明の機会を与えることなく、一方的に、会計検査院の指摘どおりに認定替えをし、昭和四六年八月三一日本件再更正処分を行ったものである。このことは、被告が一度承認した行為を、一方的に、かつ原告の不利益に変更したことになり被告の右行為は、信義則に違反するものである。したがって、本件再更正処分には信義則に違反する瑕疵が存するから本件課税処分は取消されるべきである。

2  原告の本件事業年度の所得金額は1で述べた確定申告どおりであるから、本件再更正処分には原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

三  よって、原告は本件課税処分の取消しを求める。

第三被告の本案前の申立ての理由並びに請求原因に対する認否及び主張

一  本案前の申立ての理由

1  原告は昭和四九年三月二七日に本件訴えを提起しているが、本件課税処分につき原告のした審査請求に対する裁決書騰本(以下、「本件裁決書騰本」という。)は、昭和四八年一二月二七日原告に送達されており、本件訴えは行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであるから、却下されるべきである。

2  更に、次のとおり敷えんする。

(一) 行政処分に対する取消訴訟の出訴期間は、行政事件訴訟法一四条一項ないし四項に規定するところにより計算されるべきところ、同条一項でその期間を原則として「処分又は裁決があったことを知った日から三箇月以内」と規定した上、処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合において審査請求があったときは同審査請求者の出訴期間の起算日につき同条四項で「裁決があったことを知った日から起算する。」と規定し、その起算日の特例を設けているのである。

(二) 本件課税処分は、右審査請求をすることができる場合に該るところ、原告は本件課税処分について訴外国税不服審判所長に審査請求をなし、同所長は昭和四八年一二月二五日付で「再更正処分の一部を取り消し、あわせて過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す」旨の裁決を行い、その裁決書騰本は同月二七日に原告に送達された(右の各事実については争いがない。)のであるから、本件訴えの出訴期間の起算日を定めるについては、前記のとおり行政事件訴訟法一四条四項が適用され、その「裁決があったことを知った日」が右裁決書騰本の送達された「昭和四八年一二月二七日」に該当することが明らかである。そして同項所定の出訴期間の計算方法については、法例の用語令に従い初日を算入して計算すべきであるから、本件の場合裁決があったことを知った日を第一日として期間計算がなされることは当然である。

そうすると、「昭和四八年一二月二七日」が起算日となり、昭和四九年三月二六日に法定の出訴期間が満了したこととなるのである。

してみると、本件訴えは、昭和四九年三月二七日に提起されたものであるから、前記法定の三ヶ月の出訴期間を徒過した不適法な訴えであることが明らかである。

(三) ところで、原告は、同法一四条四項所定の出訴期間の計算方法につき、本件の出訴期間は、「裁決があったことを知った日」の翌日から起算されると解すべきである旨主張するが、原告の右主張は以下に述べるとおり同条四項の解釈を誤ったことによるものであって失当である。

(1) 原告は、まず「同条四項は、同項が適用される取消訴訟の場合には、その出訴期間は、審査請求に対する裁決があったことを知った日又は裁決の日を基準として同条一項・三項を適用すべきものであることを定めたものにすぎない」旨主張するが、同条四項の立法趣旨が原告の主張のとおりであるとしても、これと同時に審査請求を経たものについては同条一項の審査請求手続をしない場合と異なり、既に不服申立手続に入っているという点を考慮して出訴期間について別異の取扱いをすべきものとして、四項では一項と異なる規定を設けたものといわなければならない。そうでなければ別の用語を用いる必要は存しないからである。

(2) 原告は、次に「行政不服審査法四五条及び国税通則法七七条はいずれも初日不算入を規定し、民法一四〇条と同様の算定方法を採用しているが、行政事件訴訟法一四条四項においても右と別異に解すべき理由は存しない。」旨主張する。

しかしながら、既に不服申立手続に入っているという点を考慮して出訴期間について別異の取扱いをすべきものとして特に同条四項の規定を設けたものであることは(一)で述べたとおりであり、処分についての異議申立期間を定めた行政不服審査法四五条及び国税に関する処分についての不服申立期間を定めた国税通則法七七条とはその規定内容を異にしていることが明らかであるから、原告の主張は失当である。

なお、行政事件訴訟法一四条四項「起算する」の文言が、法令の用語例からして、単に「期間を計算する。」という意味をもつものではなく、「‥‥‥‥日(時)から(より)」の語句と関連して、その特定の日を起算日(その日を算入)として期間計算するという意味をもつものであることは、定着した法令用語の解釈からも明らかである。

すなわち、民法上においては「起算」の用語を起算日(時)との関連で規定していること、単に期間計算だけを意味する場合には民法一四三条一項で「之ヲ算ス」と規定していること、行政関係法規上においても民法上におけると同様初日算入の場合に「起算」の用語例があること、(例えば行政不服審査法一四条一項ないし三項、四五条、五〇条及び五三条)からみても、行政事件訴訟法一四条四項の「起算する」の文言は起算日の初日を算入して期間計算するという意味をもっているものである。

(3) 以上のとおりであるから原告の主張はいずれも理由がないものであり、よって本件訴えは行政事件訴訟法一四条四項・一項に規定する出訴期間を徒過した違法な訴えであるから却下されるべきである。

二  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが同二及び三の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件事業年度における原告の所得金額の内訳は以下に述べるとおりである。

(一) 被告が、原告の申告所得一六、八六二、九二六円に加算した項目、金額は次のとおりである。

〈省略〉

(二) 前項の項目、金額の詳細は、次のとおりである。

(1) 延滞金等否認 二一、〇〇〇円

原告が工場管理費として損金に算入した、昭和四一年八月一日ないし昭和四二年七月三一日事業年度にかかる事業税(更正分)の延滞金一五、〇〇〇円及び県民税(更正分)の延滞金二、五〇〇円、並びに、源泉所得税の不納付加算税三、五〇〇円の合計二一、〇〇〇円は、損金に算入すべきものでないので否認した。

(2) 貯蔵品の計上もれ 八一八、七四〇円

後述のとおり、原告の栃木工場の土地を売却したことにより、工場建物等の解体に伴う廃材の価額八一八、七四〇円について、貯蔵品の計上もれとしたものである。

(3) 交際費の限度額超過による損金不算入額 一、〇四五、一八七円

原告が本件事業年度において支出した交際費の額は五、八九八、三三〇円であるから、租税特別措置法(昭和四六年法律第二二号による改正前のもの。)六三条の規定を適用した交際費の損金不算入額は、一、一二五、六二六円であるとして、本件事業年度の確定申告をしている。しかしながら、原告が、本件事業年度において支出した交際費の額は、工場管理費に経理した交際接待費一、〇四五、一八七円があるため、当該金額を原告の申告にかかる支出した交際費の額五、八九八、三三〇円に加算した六、九四三、五一七円になり、右金額に、租税特別措置法(昭和四六年法律第二二号による改正前のもの。)六五条の規定を適用した交際費の損金不算入額は、二、一七〇、八一三円になる。そこで、右二、一七〇、八一三円から、原告が申告において交際費の損金不算入額とした一、一二五、六二六円を控除した残額一、〇四五、一八七円を交際費の限度額超過による損金不算入額としたものである。

(4) 工場移転費否認 一、七五〇、〇〇〇円

原告が、工場移転費に計上し、損金に算入した原告の栃木工場の建物取りこわし費一五、八〇八、二六二円のうち一、七五〇、〇〇〇円は、架空に計上した経費であり、支払先がないのにもかかわらず、未払金に計上していたので、その損金算入を否認したものである。

また、右工場移転費の架空計上は、国税通則法六八条一項に規定する仮装隠ぺいの事実に該当するので、これに対し、重加算税を賦課したものである。

(5) 建物取りこわし費否認 一、八〇一、九八〇円

〈1〉 原告は、翌事業年度中である昭和四五年九月頃、小林倫三に栃木市大宮町沢田二、二七五番所在の社宅六棟を借地権付きで譲渡した。

〈2〉 そして、原告は、〈1〉記載の社宅に係る帳簿価額(当該事業年度の減価償却費の金額を控除した後の事業年度末、未償却残額)一、八〇一、九八〇円(次表に示す。)を当該事業年度に繰上げて損金に算入して申告し(これに対応する譲渡収入は、当該事業年度はもち論のこと翌事業年度の益金にも算入せず隠ぺいした。)、そのうち、次表の番号1ないし8の金額七六九、一一一円を工場移転に伴う建物取りこわし費として経理していた。

〈省略〉

〈3〉 そこで、〈2〉掲記の表の合計金額一、八〇一、九八〇円は、〈1〉で述べたとおり、譲渡時期が翌事業年度に含まれているので、翌事業年度の損金であり、当該事業年度の損金から除外したものである。

(6) 圧縮限度超過額否認 五、四六八、九五九円

〈1〉 原告が、栃木市大宮町所在の原告所有の栃木工場の土地を売却した経緯並びに右土地の売却益について、租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下同じ)六五条の四の規定による特定の資産を譲渡した場合の課税の特例を適用して法人税の申告をした。

〈2〉 しかして、栃木工場の土地の売却に伴い、原告が損金に算入した右工場建物等の取りこわし等の費用及び解体費用の金額(次の(b)の表の番号2ないし8の金額)は、右土地の売買契約において土地を更地として引渡す旨の契約のため、足銀不動産株式会社に支払った手数料四、九一二、〇〇〇円(次の(b)の表の番号1の金額)とともに、特定の資産を譲渡した場合の課税の特例に係る差益割合の計算上資産の譲渡に要した経費に該当するものである。

したがって、右土地の売却に係る差益割合は、次の算式で示すとおり七九・〇二パーセントとなる。

(a) 差益割合の算式

(売却資産の対価の額) (売却資産の帳簿価額) (譲渡に要した経費の額) (売却資産の対価の額)

〔二一三、五八九、〇〇〇円-(九、九一六、六二一円+三四、八九〇、六四一円)〕÷二一三、五八九、〇〇〇円=七九・〇二パーセント

(b) 譲渡に要した経費の額

〈省略〉

(△印は減算金額を示す。)

〈3〉 そこで、被告は、租税特別措置法六五条の四、一項に規定する右土地の売却に係る無益割合は七九・〇二パーセントであって、原告の買換資産に係る帳簿価額の圧縮限度額は、三二、六五一、一七三円(別表参照。)となり、原告が損金に算入した右買換資産の帳簿価額に係る圧縮損の金額三八、三八六、〇〇〇円(別表参照。)との差額五、七三四、八二七円(別表参照。)は、圧縮限度超過額となるから、当該超過額の損金算入を否認し、借地権を除く買換資産に係る圧縮限度超過額のうち減価償却費にみなされる金額二六五、八六八円(別表参照。)の損金算入を認めたものである。

三  以上のとおり、原告の本件事業年度における所得金額は、原告の申告所得金額一六、八六二、九二六円に被告の否認にかかる金額一〇、九〇五、八六六円を加算した二七、七六八、七九二円となるところ、本件再更正処分における所得金額(裁決により減額された後のもの)は被告の右主張金額の範囲内であるから、原告主張のような所得金額を過大に認定した違法はない。

2 (信義則違反の主張に対する反論)

被告が当初更正において、原告の申告にかかる買掛資産の帳簿価額の損金算入額を否認して更正の理由にしなかったからといって、被告が、原告の申告にかかる当該損金算入額の計算を承認したことにはならず、また本件再更正において、右損金算入額を否認したからといって信義則に違反するということにはならない。

すなわち、税務署長は、一度更正処分がなされるとそれ以降更正することができないというものではなく、先になされた更正における課税標準等又は税額等の計算に誤りを発見した場合は、これを是正する課税処分をなし得ることは国税通則法二六条の規定から明らかである(もっとも是正できる期間が法定の除斥期間内であることは必要である。)。

被告は、本件経費について前記のとおり会計検査院からの指摘があったので調査検討した結果、当初更正には誤りのあることが認められたので、本件再更正を行ったものであり、本件再更正によって増加した法人税額は、本来税法の規定によって課税されるべきものであって、本件再更正により原告は、格別の不利益を受けたわけではないのである。

また、原告は被告が本件再更正をなすに際し、原告に弁明の機会を与えることなく一方的に本件再更正を行ったものであると主張するが被告は本件経費に関し、会計検査院の指摘を受けて、本件再更正をなす際、被告所部係官は原告の経理担当者に税務署への出頭方を依頼し、それに応じて出頭した原告の取締役総務部長重住栄から、本件経費の内容を聴取る一方、それに対する被告の見解をも十分説明したのである。

以上述べたところから明らかなように、本件再更正は、信義則に違反するものではなく原告の右主張は失当である。

第四被告の本案前の申立て及び被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  本案前の申立てについて

1  本件裁決書騰本が被告主張の日に送達されたことは認めるが、出訴期間徒過の点は争う。

2  行政事件訴訟法一四条四項の出訴期間の計算においては「裁決があったことを知った日」の翌日から起算されるものと解すべきである。同法一四条四項は、同条一項及び三項の期間を計算するに際し、「裁決があったことを知った日」を基準とする趣旨で設けられたものとみるべきであり、期間の計算については同法七条、民事訴訟法一五六条、民法一四〇条の規定にしたがい初日を算入すべきではない。

行政不服審査法四五条及び国税通則法七七条には「処分があったことを知った日の翌日から起算して」とあり、民法一四〇条と同じ計算方法をとっていることからも行政事件訴訟法一四条四項も同様に解すべきである。けだし、行政不服審査法、国税通則法及び行政事件訴訟法はいずれも行政庁の処分に対する国民の権利救済のための法規であり、救済を受けようとする国民に対して期間計算の方法を異にする必要性、合理性はないからである。

なお、本件更正通知書には異議申立て等の教示方法として、「この処分に不服があるときはこの通知を受けた日の翌日から起算して二月以内に日本橋税務署長に対して異議申立て、または国税不服審判所長に対して審査請求をすることができます。」と不動文字で教示されている。

したがって、仮に被告主張のとおり解するとしても、右教示により原告会社担当者らが行政事件訴訟法の出訴期間の計算についても翌日から起算するものと考え、原告会社担当税理士からも「出訴期限は昭和四九年三月二七日」とのメモを添えて原告代理人が引き継いだのであり、既に本案審理は進行中であるから救済されるべきである。

二  被告の主張に対する原告の認否及び反論

(認否)

1 被告の主張1の冒頭部分の主張は争う。

2 同1の(一)の被告が原告の申告所得に加算した項目のうち、表の6「圧縮限度超過額否認五、四六八、九五九円」の部分は否認するが、その余の加算項目は全て認める。

3 同1の(二)の(1)ないし(5)の事実は全て認める。

4 同1の(二)の(6)の〈1〉の事実は認めるが同〈2〉は争う。同〈2〉の(b)の表のうち番号1の「支払手数料四、九一二、〇〇〇円」は認めるがその余は争う。同〈3〉は争う。同(三)も争う。

5 同2の主張は争う。

(主張)

1 被告の主張1の二の(6)圧縮限度超過額否認の項の(b)の表、番号2ないし8欄記載の経費等が栃木工場の土地の譲渡に要した経費であるとの主張は争う。

右金額は移転費用に該当すると解するのが正当であり、租税特別措置法六五条の四の規定を適用し、原告の申告どおり右金額を損金に算入すべきである。

2 原告は昭和二三年より栃木市所在の旧栃木工場で活性炭の製造をしてきた。昭和四〇年頃から活性炭の需要が増大したたため、原告においても増産を必要としたが、既存の工場は老朽化しており、また工場周辺地域の状況は工場敷地の拡大を許さないものであった。

3 その頃、原告の右工場が地元住民による公害追放キャンペーンの対象となったこと等の事情から、原告は工場の移転を計画し、昭和四四年には訴外山久炭素工業株式会社の岐阜工場(多治見市)を敷地とともに購入し移転した。

4 その後、昭和四五年八月から右新工場が繰業を開始したので栃木工場は同年七月末をもって繰業を停止し、その設備等は機密保持のため、建物とともに破壊撤去し、一部は新工場へ搬出した。

したがって右建物等の取りこわしは工場移転のために行なったものである。

5 原告は昭和四五年三月二六日、栃木工場跡地の売却に際し、買主栃木富士産業株式会社からの要請で、右跡地を更地として引渡す旨の契約条項を挿入したことは事実であるが、これはあくまで買主側の要請に応じたにすぎず、この一条項をもって譲渡のために取りこわしたものであり、したがって、右に要した費用は譲渡費用であるとする被告の主張は現実を無視した不当な認定である。

第五証拠関係

一  原告

1  甲第一号証の一ないし三、第二、第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証。

2  乙第一号証の成立は不知。第二号証は原本の存在並びに成立のいずれも認める。

二  被告

1  乙第一ないし第四号証。

2  甲第一号証の一ないし三の成立はいずれも認める。第二、第三、第四号証の一、二、第六号証の成立はいずれも不知。第五号証の成立は認める。

理由

一  出訴期間について

1  本件裁決書騰本が昭和四八年一二月二七日に原告に送達されたことは当事者間に争いがなく、また、本件訴えが同四九年三月二七日に提起されたことは、記録上明らかである。

2  したがって、原告が行政事件訴訟法一四条四項にいう「裁決があったことを知った日」は昭和四八年一二月二七日とみるべきであるから、本件訴えの適否は、出訴期間の計算上右同日を初日として期間に算入して計算するか否かによって決定されるものというべきである。

よって判断するに、行政事件訴訟法一四条四項を適用して取消訴訟の出訴期間を計算する場合には、同条項の「から起算する。」との文言等に照らし、裁決があったことを知った日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものと解するのが相当である。(最高裁判所昭和五二年二月一七日判決、最高裁判所民事判例集第三一巻第一号五〇頁。)

右判断に反する原告の主張は採用しがたく、また、原告の責に帰すべからざる事由により出訴期間(不変期間)を遵守することができなかったとの事実は本件訴訟記録上認定しえないから、本件訴えの出訴期間の最終日は昭和四九年三月二六日であったものというべきである。

したがって、本件訴えは出訴期間を徒過して提起されたものといわなければならない。

二  以上のとおり、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安部剛 裁判官 山下薫 裁判官 高橋利文)

別表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例